輪島塗漆器の製造工程 稲忠

輪島塗漆器 稲忠 Official Website

輪島塗の稲忠は、創業以来、輪島塗漆器の製造販売を営み、塗師屋として輪島塗の普及に努めています。また、漆器の修理、修復等も承っています。

輪島塗漆器のINACHU JAPAN

輪島塗漆器 稲忠の世界

稲忠漆芸堂 輪島塗漆器の製造工程


輪島塗漆器の製造工程

1.木地

原木を輪島塗の形に彫り出す作業。輪島塗の木地屋の殆どは塗師屋とは独立して自営している。原木はおおかた2~3年ほど地上に置かれ、外皮が全て剥がれおち、幹の身をからしてから用いる。例として椀木地師の作業を紹介し、その後で他の木地師の簡単な説明を記述する。

1)型はつり(かたはつり)
原木をナタ、チョウではつってお椀の形にし、おがくずを燃やした煙でくん煙乾燥する。その後さらに、1年ほど倉庫で自然乾燥を重ね、椀の形が狂わないようにする。


型はつり



2)荒挽き(あらひき)
ろくろ(木地を回転させる機械)で乾燥させた木地をまわしつつ、仕上がりよりひとまわり大きめに削り取って、再び乾燥させる。


荒挽き



3)木地挽き(きじひき)
ろくろで木地を回しつつ、かんなを使ってさらに外から内、糸底へと挽きあげる。椀木地はあかりが透けて見えるほどに薄手にしあがる。このほかにも、重箱や膳(ぜん)など(指物(さしもの)木地)、盆(曲げ物(まげもの)きじ)など、座卓の足(朴(ほう)木地)などにそれぞれ専門の木地師が存在する。


木地挽き


指物(さしもの)木地師

 角物木地(かくものきじ)ともいい、膳(ぜん)や重箱、すずり箱などの木地をノコギリやかんな、ノミを使って仕上げる。

曲げ物(まげもの)木地師

 盆、茶びつ、弁当箱など丸い筒状のものが専門の木地師である。縁をまげるときは丸い型木や木ばさみと呼ばれる独特の道具を用い、曲げやすいように縁になる部分を水につけておくなどして作られる。

朴(ほう)木地師

 座卓の足、花器、盛器など、特に曲線の多いものが専門。素材として朴(ほう)の木を用いるのが名の由来。豆かんなや小刀などで原木から木地を彫り出す。


2.下地塗

 木地の形を整え、補強し、漆を塗ることが出来る状態にする。下地の工程で塗られる部分は、漆器の外側には出ないが、布着せや、地の粉を使った下地は輪島塗の堅牢さを支える最も重要な作業であり、輪島塗が輪島塗たるゆえんである。


1)切彫り(きれぼり)
木地の接合部や割れ目などの、補強を必要とする部分を小刀で浅く掘る。

2)刻苧(こくそ)
切彫り(きれぼり)を施した部分へ、刻苧(こくそ)と呼ばれる、生漆(きうるし)と木の粉、少量の米のりを混ぜた補修材を埋めて平らにし、傷を補修する。

3)刻苧落とし(こくそおとし)
刻苧(こくそ)が乾燥してから、塗り付けた面をカンナで削って平らにする。

4)木地固め(きじがため)
木地の吸水性を抑えるため、生漆(きうるし)をへらで木地の面に塗る。


木地固め



5)木地磨き(きじみがき)
かどの部分をサメ皮でみがき、次にサンドペーパーで全体をみがく。

6)布着せ(ぬのきせ)
輪島塗の特徴的な技法のひとつで、漆器を見慣れた人ならば完成品の上から布着せの有無で、その漆器が輪島塗かどうかを判別できる。木地の弱い部分や傷みやすい部分(椀なら縁や底)に対して、着せ物漆と呼ばれる生漆と米のりを混ぜたものを用い、麻布や綿布(寒冷紗・かんれいしゃ)を貼りつけて強化する。高級品の場合は、器全体に布を貼りつける総布着せを行う場合もある。貼りつけた後は、ヘラでこすりつけてしっかりと密着させ、仕上げに指先に水を付けて丁寧に抑える。


布着せ



7)着せ物削り(きせものけずり)
着せ物が乾燥してから、布着せの際に生じた重なりあいの部分を小刀で丁寧に削って平たくする。


着せ物削り



8)惣身地付け(そうみじづけ)
布着せした部分と木地の境目をなくすために、生漆にのりと地の粉、木の粉を混ぜたものをヘラで塗りつけていく。


惣身地付け



※地の粉について
輪島市内にある小峰山(こみねやま)から産出する珪藻土(けいそうど)の一種、黄土を蒸し焼きにして粉砕した粉末のこと。この粉を混ぜると堅く引き締まるため、漆器はますます丈夫になる。布着せに並ぶ輪島塗のセールスポイントである。

9)惣身磨き(そうみみがき)
惣身付け(そうみづけ)が終わった木地を乾燥させ、荒い砥石(といし)で磨く。


惣身磨き



10)地塗り(じぬり)
惣身磨きした木地に、ヘラを使って下地を三回付ける。下地を付けるたびに、荒砥石を使って凹凸を滑らかにする。

一辺地塗り ⇒ から研ぎ ⇒ 二辺地塗り ⇒ 二辺地研ぎ ⇒ 三辺地塗り ⇒ 地研ぎ

下地として使用するのは、地漆と呼ばれる生漆に米のりと地の粉を混ぜ合わせたものであるが、地の粉と漆を混ぜる事で、地の粉の粒の表面に空いている小さなくぼみを漆が満たすため、下地の木地への密着性(みっちゃくせい)が増し、堅くて漆の剥がれにくい、堅牢な漆器が出来る。一辺地塗りと比べ、二辺地塗り、三辺地塗りと繰り返すごとに米のりの割合を減らし、地の粉をきめ細かくしていくのが特徴。三辺地塗りが完了したのち、水をつけながら荒砥石で磨く地研ぎという作業をへて、ようやく下地塗りは完了となる。


三辺地付け


地研ぎ


3.中塗

下地層をさらに固くし、上塗をよく仕上げるための工程。

1)中塗(なかぬり)
精製された中塗漆を前面に塗って、下地層にしみこませる。堅牢な輪島塗を作る為の締めの作業であり、また美しい上塗の為の土台を形作る作業である。
中塗漆を塗った後、漆器を塗師風呂(ぬしぶろ)に入れて乾かす。塗師風呂は、杉板で作られた収納庫で、湿度と温度を一定に保ち、漆が固まりやすい環境を作る。


中塗



2)錆ざらい(さびざらい)
中塗漆が乾いたのち、塗面の大きなごみを外かんななどで軽く木目方向に削り取る。

3)つくろい錆(さび)
錆漆(さびうるし:生漆と水練りした研の粉をまぜたもの)を地研ぎや中塗の欠陥個所にヘラで塗る。

4)こしらえもん
全面を滑らかになるまで、駿河炭(するがずみ:アブラギリの炭)で水を付けて研ぐ。この作業はろくろを用い、漆器を回転させながら行われる。


こしらえもん



5)小中塗(こなかぬり)
再び、中塗漆を全面に塗って塗師風呂へ入れて乾かす。中塗を二層塗り固める事で、より堅牢な漆器が出来上がる。


小中塗



6)小中研ぎ(こなかぬり)
再び、全面を滑らかになるまで水を付けて研ぐ。

7)拭き上げ(ふきあげ)
もう一度、やわらかい駿河炭(するがずみ)で全体を精密に研ぎ、ごみなどを取り除いて布で拭く。これ以後は手の油分がつくと仕上がりが悪くなるため、素手で触る事は厳禁。


拭き上げ

4.上塗

上塗は仕上げの作業であり、細心の注意を払って行わる。外の寒暖が伝わりにくく作られた、チリやホコリが飛散しない上塗専用の部屋が、塗師屋には必ず用意されている。上塗りに使う漆は最上質のものを何度 も繰り返しろ過した純度の高いもので、これを薄すぎず、厚すぎず、塗りむらが出来ない様にさまざまな刷毛を使い、程良い暑さに塗りあげる。
この作業は塗師屋でも特に熟練の職人が担当する作業であり、弊社工場では「平成の玉虫厨子」の塗りに関わった、坂本工場長が自ら担当している。

上塗を終えたのちは、チリを取り払った上で湿度の高い回転 風呂に入れ、漆が垂れてむらが出来ないよう、一定時間ごとに回転させながら乾燥させる。

上塗をしてそのまま仕上げる技法を「塗立」と呼ぶが、高級な輪島塗はさらに、「呂色」と呼ばれる、漆器の表面を磨き上げる工程をへて、鏡のように照り返すツヤをあたえられ、輪島塗として完成するのである。


上塗り

5.加飾

大きく分けて蒔絵と沈金の二種類の技法がある。

沈金

ノミで表面に模様を彫って出来た溝に漆をすりこみ、そこに金箔や粉、あるいは色の粉を埋めて模様を描く。

蒔絵

漆器の表面に漆で絵や模様を描き、それが乾かないうちに金や銀の粉をふり蒔く(まく)。


詳細は、下地の製造工程沈金の製造工程蒔絵の製造工程それぞれのページを参照の事。


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